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「じゃあ俺はどうやってウェストファリアに行くんだ?」
俺の前に立つ水色の髪を持つ女に俺は問いかける。このままじゃ俺はウェストファリアに行けない。大問題だ。
「魔力を宿してる人に触れていれば門は通れるわよ。一回ウェストファリアに行けば魔力を使わない限り門のことは問題ないわ。だから絶対こっちで魔力使い果たさないでね?」
「肝に銘じとく」
時刻は11時45分。
窓に目をやると太陽が頂点に差し掛かろうとしている。気温は下がることを知らない。紫外線が肌を突き抜けるように、今日も太陽は馬鹿を貫いてるらしい。
本来ならば家を出ないといけない時間だけど今日ばかりは仕方ない。今日は行き先が違うからな。
「これで聞きたいことはない?」
「今のところは。ありがとな。」
リズが頷く。そして右手で俺の左手をとり、微笑んだ。
その手が何を意味するのかは言うまでもない。故に、彼女が次に何を言おうとすることも分かる。
俺の心に迷いはない。
大丈夫。もう決めた。
「じゃあ――――行こっか」
「ああ、行こう」
手を繋いだまま壁へと一歩踏み出す。さっきみたいに壁にぶつからないかと不安もあったけど、俺達の体は抵抗なく壁を通り抜けた。
壁の中はどこまても広がる真っ白な世界。あともう一歩踏み出せば俺の体は完全に壁に入り込むだろう。そうなれば、外から聞こえる蝉の鳴き声も聞こえなくなるな。
一歩―――今、完全に体が完全に壁に入った。そう認識すると体が急に浮遊感に襲われる。周りが真っ白なので平衡感覚を奪われたような錯覚に陥る。
フワフワと浮くような慣れない感覚。軽くよろめく俺をリズは支えてくれる。リズは流石と言うべきか、ゆったりと落ち着いている。
バランスを保とうと苦心していると急に浮遊感が強まり、辺りが光を放ちだす。自分の体もリズの体も、全てが白い光に包まれ見えなくなっていく。
浮遊感にバランスを奪われ白い光に視界を奪われこけそうになる。だけど焦ることはなかった。白い光のおかげかリズがいるおかげか、不思議と俺は落ち着いていた。
光が一層強くなる。
そういやテレビ消し忘れたっけ―――
全てが白い光で覆い尽くされる直前、俺が思ったのはそんな馬鹿なことだった。
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