残った想いの底力

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もちろん大原には視えておらず、彼はそこで待ってろと一言告げると、足早に廊下の先へと姿を消す。 それを見届けた後、俺はその男へと向き直った。 若い男だ。 俺よりもほんの少し上だろう。 しかしその風貌はやつれ、くたびれきっていた。 だがそれでも、そいつは必死に俺へと訴えかけてくる。 「……なるほど、そういうことか。で、なぜ妹の方に?」 「――――。」 「そうか。事情は分かった。でも、証拠が無いんだろ?だったら……。」 「――――。」 「そういうことなら、分かった。」 と、そこで大原が角から顔を出す。 「こっちだ、来い。」 俺は男を一瞥すると、そいつが頷くのを見て大原の後に続く。 やがて案内された寝室では、一人の少女が眠っていた。 大原さやか。 俺の一つ下だという彼女は、苦しそうにベッドの上で眠っている。 「……どうだ?」 痺れを切らしたのか、大原が聞いてくるが、俺は一言。 「少し、一人にしてほしい。」 それに彼は怪訝そうに眉を寄せるが、やがて踵を返して部屋を出る。 .
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