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「ありがとうございます。…お借りします。」
小さく頭を下げて差し出された番傘を受け取る。この人の言う通り、懐かしい感じがするとはいえ親しいわけでもない人間の家に泊まるのにはさすがに抵抗がある。
― それに、多分ここは…
手の中に収まった傘は自分が思ったよりも重量感があった。
開いた鮮やかな赤に空が隠れる。
「雨が弱くなったと言っても道がぬかるんでいるかもしれないからね。気をつけてお帰り。」
ポツリポツリと雨が当たる音を感じながら庭に出るのを縁側から見送りながらその人は気遣う言葉をかけてくれた。
「いきなり押しかけてすみませんでした。
傘、明日帰しに来ますね。」
「わざわざ帰しに来てくれなくても構わないよ、大して高価なものでもないし…
どうせ使う事はないだろうからね。」
私の言葉に少し困ったように笑うと、優しく目を細めた。
「それよりお礼を言うのはこちらの方だよ。
…久々に話せて楽しかった。」
「ありがとう。」と言って微笑む彼に小さく会釈をして屋敷に背を向けた。
「…――…。」
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