プロローグ

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「ねえ。もし私たちがもう一度会えた時にさ、私のお願いを一つ聞いてくれないかな?」 「――――?」 「ごめんね。今はまだ言わない。再会した時、初めて聞いてもらいたいの」 「――――…………」 「あ! ダメ!」  少女は慌てた様子で少年の口を手で覆い、彼が口に出そうとしていた言葉を押しとどめた。 「その言葉だけはダメ。私もその言葉、すっごく嬉しかったよ。……でも今その言葉を使って欲しくないの。もう一度再会できた時、その時のあなたからその言葉を聞きたいから……」  少女の手がゆっくりと少年の口から離れる。少年は茫然とした様子で少女を見つめていたが、その少女はやがて少年に背を向けて歩きだした。  少女が公園の出口辺りに差し掛かった時、人影が現れ、少女は人影へ向かって駆けだした。 そして人影の元へ寄ると少女は抱きつき、人影もまた彼女のことを抱きしめ返した。  その光景を少年は遠くから見続けていたが、不意に頭にポンと手が乗せられ、少年が振り向くと、それまで少年と少女のことを見守り続けていた女性が少年の後ろに立っていた。 「さ、私たちも帰ろうか」  そう言って女性は少年の手を握って立ち上がらせ、その手を引いて歩き始める。  少年は大人しくその手に従って歩いていたが、ふと何気なく後ろを振り返った。  すると少女も同じく振り返った時であったようで、少女は少年と目があったことに気がつくと、満面の笑みを浮かべて彼に向って手を振り始めた。 「またね! ひとよしくん!」   ――それはある幼き日の出来事、いつしか忘れ、記憶の彼方へと消えていく程度の出来事であった。
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