1章‐1節 春に出会いを求める人たち

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アイヴスは二発目のパン屑とともに突っ込んだ。 「そんなに女生徒はいない」 対面の顔がパン屑を口で受けてニヤリと笑う。 「切りのいい順位まで付けたかったから、学院関係者は全員対象にした」 アイヴスの口からため息が洩れた。 「せめて年齢制限はしとけよ」 ウィディスは鼻で笑って、わかってないな、と言い返す。 「女は幾つになってもお嬢様なんだよ」 「とりあえず十位からで頼む」 ウィディスは長い足を組みなおすと嬉しそうな顔で指を鳴らした。 「あいよ。まずは十位、キルフゥ・スィグルルッド。ブロンドの長髪がおしとやかそうな雰囲気の美少女だが、つややかな唇の持ち主で気さくな話し好きだ。アルヴォンで一、二を争う情報通でもある」 地方貴族にすぎないアイヴスは腕を組んで残念そうに首を横に振った。 「う~ん、スィグルルッド家の娘とは縁がなさそうだな」 ウィディスも憐れむようにかぶりを振った。 「確かに三流貴族のお前にゃ縁がない」 「ほっとけ」 三発目のパン屑が飛んだ。 「九位はマリュエル・ハァリエン。ディヴェド宮廷で財務を担うハァリエン伯爵のご令嬢だ。特定の専攻はないが、アルヴォン運営評議会を仕切っている実力者だ」 「容姿についてのコメントがないぞ」 ウィディスは黙ってアイヴスの目を見つめた後、ボソッと呟いた。 「予算を握っていて学院内に逆らう者はいない。ちなみに本番付のメインスポンサーでもある」 政治力に負けた結果の順位なのだろう。 毎年恒例のこの番付も存外アテにはできない。 ウィディスは無念の表情で先を続けた。 「八位に入ったのは、セィリアン・ハイサイラム。ディヴェド宮廷御用達のハイサイラム商会が実家だ」 ウィディスはポイントの記述箇所を指で押さえながら続けた。 「魔法学科では『呼び出し・モノ捜しのお姉さん』と呼ばれている。漆黒のキューティクルヘアーとミルクのような白い肌が際だった美しさだ。黒い瞳のぱっちりした目がチャームポイントでもある。その妖しい眼力で数々の男を虜にした色好みと、巷では噂されている」 「噂? 評判を鵜呑みでいいのか、選者ウィディスよ」
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