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「――私が呼んだ理由、分かるよね?」
時間は夕刻。赤い夕日が優しく照らす、放課後の閑散とした教室。生徒が帰宅、または部活動に勤しむ時刻、誰もいない筈の教室に男女の人影が。
彼女はニコリと俺に微笑みかけ、前の席を指差した。
その笑みの意図を理解出来ず、俺は何も返さずに黙ってその席に座る。
途端、訪れる沈黙。
やけに聞こえる心音。
カチカチと時刻を刻む時計の秒針。
「あれから、考えてくれた?」
この痛々しいまでの沈黙を破ったのは、俺ではなく彼女だった。
真っ直ぐとこちらの目を見て、返答を待つ彼女。
「俺は――」
その視線に当てられ、答えに詰まった俺は、逃げるように視線を泳がし、教室を見渡す。
視線の先はゆらゆらと動く。
黒板の落書き。
開け放たれた窓からは、運動部の掛け声が聞こえてくる。
窓から入る風が「Happy Birthday」と、級友の誕生日を祝った剥がれかけの掲示物を揺らす。
「答えなんて――」
今出すもの?
今必要?
そんな言葉が出かかって、慌てて飲み込む。
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