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「やってくれるね?」
ゆずきが下からあたしの顔を覗きこんで、強く念を押した。
あたしは力なくソファーに腰をおろし、かすれた声を絞り出した。
「…事情を説明してください…」
「詳しいことは言えない。だが、ちょっと困ったことになってね」
ゆずきは、苦々しい表情を浮かべた。
「君に盗み出してほしいのは、純希(じゅんき)の持ってるUSBカードだ」
「純希?」
「北条財閥のトップだ。まだ27だが、辣腕の経営者だ。女としては、まるで可愛いげないがね」
ゆずきは顔を歪めて、憎々し気に吐き捨てた。
純希という人のことを、よく思っていないらしい。
「どうして、あたしに、こんなことを…?」
まだ困惑しながら、あたしは弱々しく尋ねた。
「あの店は、以前から万引きが多いことで有名でね。昔の仲間に頼んで、見張っててもらったんだ。誰か万引きする奴がいたら、その現場をデジカメに撮って、それをネタに取引しようと思ってね」
ゆずきは、悪びれもせずに言った。
……取引って……
立派な脅迫だと思うけど。
だけど。
あたしに選択の余地はない。
やるしかないんだわ。
ゆずきの顔から視線をそらして、あたしはきつく唇を噛みしめた。
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