第1章 奇妙な取引

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「やってくれるね?」 ゆずきが下からあたしの顔を覗きこんで、強く念を押した。 あたしは力なくソファーに腰をおろし、かすれた声を絞り出した。 「…事情を説明してください…」 「詳しいことは言えない。だが、ちょっと困ったことになってね」 ゆずきは、苦々しい表情を浮かべた。 「君に盗み出してほしいのは、純希(じゅんき)の持ってるUSBカードだ」 「純希?」 「北条財閥のトップだ。まだ27だが、辣腕の経営者だ。女としては、まるで可愛いげないがね」 ゆずきは顔を歪めて、憎々し気に吐き捨てた。 純希という人のことを、よく思っていないらしい。 「どうして、あたしに、こんなことを…?」 まだ困惑しながら、あたしは弱々しく尋ねた。 「あの店は、以前から万引きが多いことで有名でね。昔の仲間に頼んで、見張っててもらったんだ。誰か万引きする奴がいたら、その現場をデジカメに撮って、それをネタに取引しようと思ってね」 ゆずきは、悪びれもせずに言った。 ……取引って…… 立派な脅迫だと思うけど。 だけど。 あたしに選択の余地はない。 やるしかないんだわ。 ゆずきの顔から視線をそらして、あたしはきつく唇を噛みしめた。
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