第1章 奇妙な取引

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断れるはずがなかった。 促されるままに、あたしは、車の後部席に乗りこんだ。 それを確認すると、男性は運転席に乗りこみ、車を発進させた。 車がスピードをあげるにつれて、不安がますます大きくなっていく。 どうしよう……あたし、逮捕されちゃうのかな……あんなこと、するんじゃなかった…… 重苦しい後悔が胸に渦巻き、泣きそうになる。 両手をきゅっと膝の上で握り、あたしは涙がこぼれないように、きつく唇を噛みしめていた。 ずっとうなだれていたので、どこをどう走ったのか、わからなかった。 20分くらい走ってから車は停まり、降りるように言われた。 そこは、マンションの駐車場だった。 「こっちだ」 ひと言告げると、男性はふりむきもせずに、ずんずん歩いていく。 あたしは、小走りに後を追った。 玄関ホールを抜け、エレベーターで7階にあがる。 まわりを見る余裕なんてなくて、割りと高級なマンションだって気づいたのは、部屋に入ってからだった。 広々としたリビングに通され、少しだけ待たされた。 「悪かったね、こんな所まで連れてきちゃって」 言いながら、奥の部屋から現れたのはー 「櫻井(さくらい)ゆずき!」 あたしは、思わず叫んでいた。
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