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断れるはずがなかった。
促されるままに、あたしは、車の後部席に乗りこんだ。
それを確認すると、男性は運転席に乗りこみ、車を発進させた。
車がスピードをあげるにつれて、不安がますます大きくなっていく。
どうしよう……あたし、逮捕されちゃうのかな……あんなこと、するんじゃなかった……
重苦しい後悔が胸に渦巻き、泣きそうになる。
両手をきゅっと膝の上で握り、あたしは涙がこぼれないように、きつく唇を噛みしめていた。
ずっとうなだれていたので、どこをどう走ったのか、わからなかった。
20分くらい走ってから車は停まり、降りるように言われた。
そこは、マンションの駐車場だった。
「こっちだ」
ひと言告げると、男性はふりむきもせずに、ずんずん歩いていく。
あたしは、小走りに後を追った。
玄関ホールを抜け、エレベーターで7階にあがる。
まわりを見る余裕なんてなくて、割りと高級なマンションだって気づいたのは、部屋に入ってからだった。
広々としたリビングに通され、少しだけ待たされた。
「悪かったね、こんな所まで連れてきちゃって」
言いながら、奥の部屋から現れたのはー
「櫻井(さくらい)ゆずき!」
あたしは、思わず叫んでいた。
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