第1章 奇妙な取引

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……はぁ…… アクセサリーショップの中で、あたしはため息をついた。 今日何回めかな、ため息つくの。 だって。だって。 仕事はクビになるわ、彼氏はとられるわ、本当に踏んだり蹴ったりなんだもん。 じわっと涙が滲んできて、あたしは慌ててまばたきした。 一生懸命、慰めてくれた友人たちの声を思い出して、自分を元気づけようと、虚しい努力を試みる。 「れなは可愛いから、妬まれてるんだよ」 ううん、そんなことないもん。あたしなんて、全然たいしたことないもん。 「同性に妬まれても、男にモテるからいいじゃん」 でも、同性の友達だってほしい。それに、そのせいでイジメられたんだよ? 「れなは、学校でも職場でもモテモテだったからねー。ちょっとしたアイドル?羨ましいよぉ、オメメぱっちりだしさ」 でも、あたし、本当は男の人ってちょっと苦手。何か恥ずかしくて、うまく話せない。 「も~、24にもなってそんなこと言ってるから、『ぶりっこ』ってイジメられんのよ!邦彦(くにひこ)さんとは普通につきあってたんでしょ?」 だって、邦彦さん、とられちゃったし。 あ…駄目。また涙が滲んできた。 涙がこぼれないよう上を向いて、あたしは、長い睫をしばたたいた。
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