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伶人が白楽寺で修業を行っていた頃、若知神社では…
「伶人いねぇな」
金髪黒白少年が、賽銭もそこそこに鳥居の下に座っていた。
「まあ、勝手に上がるとでもするかな…」
ややあって、腰を上げた少年は、その足取りで母屋に回った。言うまでもないが、彼は伶人に茶をたかりに来た真理夫だ。
「伶人、いるか…って、誰だお前?」
母屋の障子を開けると、中には巫女服を着たおかっぱの少女がいた。ご丁寧にも紅白のめでたい色合いだ。
「あれ、お客さんかしら?」
その巫女服少女は、真理夫を見るなりそう言った。
そして、同時に一言。
「あれ、お前は…」
「あれ、あなたは…」
――伶人はこの間妖怪退治に行ったんだよな。ひょっとして…
――…何も言わずに上がってくる、という事は神主さんの知り合いかしら?
「なあ、お前は誰なんだ? 因みに俺は桐原真理夫、普通の民間人だぜ」
「私は谷中結希。ちょっと色々あって、ここの神主さんに住ませてもらってるの」
「へえ、あの伶人がねえ。あいつも隅に置けないなあ」
真理夫は適当な事を言って返す。
「ところで、お前」
「あら、こんな可愛い女の子に『お前』だなんて、失礼しちゃうわね」
「ふざけるなよ」
「あら、ばれた?」
「まったく、ばれたも何もないぜ… ともかく」
早々に冗談を切り上げる真理夫。
「ひょっとして、伶人とは森の中で会わなかったか?」
この問いに、結希は即答した。
「ええ」
「…多分、お前、妖怪と勘違いされてたぜ」
「…ちょっとからかってただけなのに。妖怪はないわ」
――ま、間違ってはいないけどね。
「はは、違いない。あんな暗い所で悪戯されちゃ、たまらないわな」
「あ、そうだ、桐原さん」
「真理夫でいいぜ」
「じゃあ真理夫さん、お茶、淹れてきますね」
「お、サンキュー。じゃあ頼むな」
こちらも、一杯の煎茶が話を膨らますのは自明そうであった。
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