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――まずい、まずい。危うく私が妖怪だ、ってばれるところだったわね。
真理夫の目が届かない台所で、結希は焦り半分、安堵半分で冷や汗を密かに流していた。
――あいつ、ああ言ってるが、きっと霧ヶ森の妖怪のはあの結希だろうな。
…真理夫にはとっくにばれていた。
――まあ、人畜無害なんだろうけどな。
「お待ち遠様」
「いや、大して待っちゃいないぜ、結希ちゃんよ」
――ゆ、結希“ちゃん”!?
「…ねえ、真理夫さん」
「ん?」
「あの、その呼び方やめてくれない?」
「…へ?」
見ると、少女は赤面していた。
「おっと、こいつはすまなかったぜ。だが、なら何と呼びゃいいんだ?」
「ただ『結希』でいいわよ」
「オーケー、結希」
――あれ、何でだろう。心がむず痒い…
真理夫が曇りのない笑顔で放ったその名前は、持ち主にとっては最終兵器並みの威力であった。
「…うん」
俯く結希の顔は、未だ恥ずかしそうに紅潮していた。
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