序章

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「ああ、蒸し暑いな……」 参道の草むしりをしながら、『肩神主』はぼやいた。 珍しくだらけずに働いている姿に、神社に立ち寄った人々は奇妙なものでも見るような目付きで彼を眺めた。 「くそ、何で今年はこんなに蚊が大量発生するんだよ……」 誰にも聞こえないように呟く。 太陽が真南に燦燦と輝く。光に額の汗が煌めく。 狩衣が汗でぐっしょり濡れてもなお、少年は手を止めない。草群と化した参道に誰も来ないならば、彼の懐に氷河期が訪れてしまうからだ。 「……よし、やっと終わった」 額の汗を右腕をまくって拭うこの男の目線の先、鳥居に掲げられた『若知神社』の文字…… 「さて、この間もらった水出し緑茶、ちょっくら試してみるか」 神社に入っていった少年――名を中村伶人といった……
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