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「そういえば伶人君、知ってるかしら?」
出がらしをむしろに引いて天日に干す伶人に向かって、唐突に凛子が尋ねる。
「何ですか?」
「いや、それがね、最近森の方に変なものが出る、って噂が出ているのよ」
「変なもの……差し詰め夜光茸でも採りに行って、胞子を浴びてしこたまてかる真理夫か何かでしょう?」
「馬鹿言うな。それじゃ俺が不審者みたいな物言いじゃないか。それに夜光茸はこんな北に無いぜ」
「お前は冗談が通じないのか」
喚く真理夫に冷酷に突っ込む冷人、もとい伶人。
「そうじゃないわよ。何て言うか……まあ、『人間離れした子供』って言ったら分かるかしら?」
「人間離れした……子供……」
「ああ、その話か。確か、みんな揃いも揃って『女の子に化けた怪物』って言ってたぜ?」
「……なるほど、よく分かった」
伶人には思い当たる節があった。というよりも、思い当たらない節が無かった。
「そいつは妖怪だな」
「妖怪?」
「おい伶人、お前、本気で言ってるのか?」
当然、桐原姉弟は信じようとしない。
「俺は本気で正気だ。とにかく、空想上の存在でも、そこにいれば現実なんだ。例え妖怪だろうと」
「……確かに一理あるわね」
「姉貴までそんな出鱈目信じるのかよ……」
「出鱈目じゃないわよ。非存在はまだ出ていないから未存在でもあるのよ。それが出てきたって不思議じゃないわよ」
「屁理屈言うなって」
「あら、あの万有引力を見つけたニュートンだって、地球の引力を抜け出すのは無理だって決め付けてたのよ。今あるロケットだって、当時は只の空想の産物でしかない事にならない?」
「……悪い、意味が分からねえ」
姉の繰り出す理論に脳の処理が追い付かず、真理夫は目を回してしまった。
「ともかく、妖怪は実在するのね?」
「ええ。少なくとも俺の知っている範囲では。あれだったら、俺が解決しますよ?」
「え、伶人君が?」
「そりゃそうですよ。一応神職ですから。怨霊物化妖怪変化、それを鎮めるのも立派な職務ですよ」
「何が神職だ。年がら年中茶飲んで寝てるだけだろうが」
その直後に真理夫の頭に金盥が落ちたのも偶然ではなかった。
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