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その日も結界の外に戻った伶人は、そのまま日が暮れないうちに霧ヶ森に向かった。桐原姉弟曰く、妖怪は、どうやらこの辺りに出るらしい。
「しかしまあ、情報が少ないんだよな……普通なら見つからないだろ」
神社の傍にある霧ヶ森は、確かに非常に木々の入り組んだ樹海で、一度入った人間は二度と出られない、という噂が出た程だ。
「まあ、少女の妖怪ならばきっと『あっち』から来たんだろうな。だとしたらまだ助かったかもな」
そう独りで言うと、伶人はいきなり目を閉じて精神を集中させはじめた。
実のところ、伶人は昔から霊感が強く、妖気や霊気を感じ取れる体質である。妖怪界の住人探しに特化した体質と言えなくもない。
――ああ、本当にいたな。
遂に妖気を感じ取った伶人、頭に巻いた赤手拭いを丁寧に三角に畳み懐に放り込んだ。同時に烏帽子を出し、頭に被った。
刹那、伶人の眼光が鋭くなる。本気を出した証拠だ。
――やれやれ、厄介な事になりそうだ。だがそれでいてこんなに愉快なのは何故なんだろうな。
微笑を浮かべた次の瞬間、そこから伶人の姿は消え失せていた。
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