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けれどそれを気に入らないと言われ、散々口酸っぱく叩き直された――志貴に。
「おはよ」
低い、今にも人を声だけで殺せそうな、地響きさえするんじゃないかってくらい暗すぎる朝の挨拶を返された。
こんな暗い挨拶、朝からしてんじゃねーよ!!!
と心の中で思うけれど、グッと我慢する。
――今は仕事、仕事中だからね理香
私の寛大なブチ切れ線も最早5本から10本に増設されたんじゃないだろうか。それくらい私には『寛大』という心意気が身に着いたように思われる。
「本日のご予定確認、宜しいでしょうか」
「あぁ」
お互いに手元の手帳を取り出して、広げられた紙面に視線を落とす。
恐らく彼の視界に私なんて微塵も映っていないだろう。
朝から今までのこの間に、一度も。
そう思うと何となく恥ずかしくなって、右手を隠すように手帳を持ち直した。
「午前中、ご依頼人の佐藤様がお見えになります。その後、現場確認と聞いておりますが、お間違いありませんでしょうか」
「あぁ」
極力丁寧に、私はあくまで雇われ人、との態度を崩さず話す。
コレが私のせめてもの働くスタイルだ、と言わんばかりに。
始めこそ、私のたどたどしい敬語は大雅さんに笑われていたけれど、最近は様になってきている……と思う。
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