1368人が本棚に入れています
本棚に追加
「俺は、手順は踏む方だ」
「手順って何!?」
「お前、意味を知らないのか? 辞書あるだろそこにも」
そう言って事務所の方に後ろ指で示す。
――違う、そうじゃない!!!
「そ、そういうことじゃなくてっ」
「駄目だな理香は。まだまだ頭が足りない」
「はぁ!? あ、アンタが、お、おかしいんでしょ!?」
言い返しながらも頭の中はこんがらがってるし、いろいろ恥ずかしさでいっぱいで顔は赤いままだ。
なんで私がこんなにやり込められているのか分からないけれど、とにかくおかしいのは私じゃない。
私じゃない、はずなのに――
「取りあえず、もう黙って従えよ」
そう言うや否や、彼の手が壁から離れて私の頤を持ち上げた。
逸らせないその言い方も、その手も何もかも気に入らない。
でも、悔しいかな。
私は志貴のグレイの瞳だけは堪らなく好きで、アレにだけは逆らえないっていつも思う。
「理香」
熱っぽく感じるその声で名前を呼ばれると、身体の奥がジンと何か響いて溶けていく。
それに耐えるように瞳を持ち上げると、完全にその瞳に捕まった。
「し、志貴なんか、嫌いなんだからっ」
悔し紛れにそう言いかえしながら、プレゼントのお礼も言えない自分が情けない。
それでも奴はそんなことは気にすることはない。
最初のコメントを投稿しよう!