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その日は、両親がお得意様に商品の配達に向かっていた。
私の家は下町の閑静な住宅街にある。
下町のみんなは近所付合いが良く、歩けば誰からも声をかけられる。
そして、私の家は喫茶兼飲食店を営んでいて、下町のみんなの憩いの場となっている。
『お得意様』はお店にもよく来てくれるのだが、うちの店で出しているケーキが美味しいと取り寄せで注文をしてくる。
お人よしな両親は忙しいにもかかわらず、そのお客様方にわざわざお届けに出向いている。
そのため、必然的に店番は私が担当することになる。
しかし、あくまで私は接客担当なので、この時ばかりは伯父さんに手伝ってもらう。
この日も伯父さんの腕を信頼して両親は出かけて行ったのだ。
問題は伯父さんがほんの少し目を離した隙に起こった。
お客の出入りが激しかったこの日、ホールに1人しかいないこの店は厳しかった。
勿論細心の注意を払ってはいたが、それでもてんてこ舞いだった。
伯父さんが言うには、彼はずっといたらしいのだが、ぶつかってしまった。
さらに運が悪いことに、他の客に配るはずのお茶をぶっかけてしまった。
その5分後、私は彼に腕を掴まれて店から飛び出してしまった。
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