一章~因果分子~

8/28
前へ
/324ページ
次へ
ふわふわと身体が浮いているような感覚の中、刹那の意識は目覚めた。しかし、これは夢である事だとすぐに把握する。 そこは、ある公園。 そう、『世界α』にある、緑丘市にある一般的な公園だ。 『待つんだ桜!』 公園の中は、それなりに多くの子供や親子連れがいたが、刹那はある少年と少女に注目する。 『刹那、こっちこっち!』 『…逃げ足は速いな』 幼い頃の刹那と、幼馴染の春吹桜(ハルブキサクラ)。栗色の肩までかかるほどの長さの髪は、刹那が桜と最後に助けた三年前まで変わらなかった。 この夢は、過去の出来事を立体映像のように映し出しているものだと、刹那は認識している。幼い頃の自分達を見る限り、小学三年生辺りか。二人は鬼ごっこをやっている。 『桜! 逃げるのは構わないが、気を付けるんだぞ!』 『だいじょーぶ! あたしはこのくらいで…きゃっ』 幼い桜は、後ろ向きで走っていたが、地面から角が突き出ていた小石に踵を引っ掛けてしまい、背中から倒れてしまった。 それを見て慌てた幼い刹那は、急いで桜の元を駆け寄る。 『大丈夫か、桜?』 『…うぅ…ひぐっ…刹那ぁ…』 『だから気を付けろと言ったんだ。立てるか?』 幼い刹那は桜の手を取って立たせ、怪我がない事を確認し、桜の服についた砂埃を払う。 しかし、一向に桜は泣き止む様子がないので、刹那は桜をあやすように頭を撫でる。 『刹那…?』 『泣くな、桜。俺がいる』 『どういう意味…?』 『俺がいるから、泣く必要はない。桜は、笑っている顔が一番なんだ』
/324ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加