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『…うん!』
幼い刹那の言葉で、桜の表情に笑顔が戻った。
そして、二人は手をつないで、公園から出て行った。
「……」
その様子を見ていた刹那は、無意識に右手に視線を送る。
「…俺は、桜を守りきる事ができたのか?」
自問自答。
しかし、出てくる答は────否。
確かに、桜の元にいる時は守る事を信条にして生きてきた。
だが、桜には幾度も危険な目に遭わせてしまったし、それどころか、桜の前から去る結果となってしまった。
「俺は…」
そして、刹那の意識は現実世界に引き戻されていった。
早朝。
起床した刹那は、最下層の食堂に降りた。そこには、この民宿の住人と、民宿の主である神楽山さゆりが、朝食の準備をしていた。
「お、起きてきたね刹那」
「…どうも」
「まったく、朝からシャキッとしないねっ」
ボブカットのショートヘアを靡かせながらおかずを並べていくさゆり。
刹那はその様子を横目に、手前の空いている椅子に座る。
「…また飲まされたの、兄さん?」
「…そんなところだ」
刹那の対面に座る、セミロングの茶髪を左側でサイドポニーしている少女は、朝丘凪(アサオカナギ)。現在、近くの高校に通う一年生だ。刹那が来た頃にはもうここの住人で、兄の存在に憧れていたせいか、刹那を『兄さん』と慕っている。
「まったく、兄さんに迷惑かけるなんて…。後で実華さんにはちゃんと言っておかないと…」
「凪。別に俺は気にしていない。お前が気に病む事もない」
「兄さん、優し過ぎだよ」
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