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凪はそれだけ言うと、少しそっぽ向いてしまった。見た目は活発なように見えるが、実は意外と内気なのが凪の特徴。
「こりゃまた、兄貴失格じゃねぇのか?」
「…朝から元気だな、銀二」
刹那の隣の少しガタイが良い短髪の男が、にやけ面をしながら視線を送ってくる。
染矢銀二(ソメヤギンジ)。刹那と同い年だが、就職して建築業に携わっている。
「おうよ! 体力と元気がなけりゃ、仕事なんてやっていけないぜっ」
「だからといって、朝からそれを他人に押し付けるのはどうかと思うが…」
「な~にぃ~!」
「喧嘩しない! アホ共!」
さゆりにピシャリと叱られた二人は、大人しくなる。
別段と仲が悪いわけではない(むしろ友好関係)だが、時々衝突する刹那と銀二。
しかし、刹那の周辺の人間は微笑ましく思っているのだ。
ここの民宿は、後寝ている実華を含めた四人が住んでいる。
「実華はどうするんだ?」
「あー、アイツは今日は休みだからいいんだと」
刹那の質問に銀二が素っ気なく答える。
それから、適当に朝の支度を終えた刹那は、民宿の入り口で凪を待つ。
「お待たせ、兄さん」
「ああ、行くぞ」
「うん」
二人は徒歩で数分ほど先にあるバス停まで歩き、さらに数分先の青山工学院大学前のバス停まで向かう。途中、「またね、兄さん」と言って凪がバスを降り、一人になった刹那は、大学前のバス停に降りて本キャンパスに歩いていく。
「おーっす、刹那」
大学敷地内の第二学舎の入り口前では、柊介が何かの用紙の束を手に、ビラ配りをやっている。
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