一章~因果分子~

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現在は十月。 刹那がこの世界にやって来てから、三年という月日が流れた。 栃木県青山市にある私立青山工学院大学の機械学部科学技術科の二年生の刹那は、自宅として使わせてもらっている民宿の部屋で、課題のレポートをまとめ終えたところだ。 『刹那、これで提出期限には間に合いますね』 刹那の右手首の腕時計が、画面を点滅させながら言葉を発した。 これは、刹那が以前、MINDSの力を使えていた時、自身のMINDSであるネオスライザーの待機状態であった物だ。これは、何故かMINDSが使えなくなっていまった今も、形として残っている。 そして、この腕時計の中には『ネオ』と呼ばれるAIが組み込んである。三年前、向こうの世界の仲間に組み込んでもらった、かつて刹那が向こうの世界にいた事を証明するものの一つだ。 「ああ。機械工学の基本的な理論に先月の実験の結果を照らし合わせる程度のレポートだ。すぐに終わる」 『提出物は期間のうちに出す。成績も良い方。なのに、講義態度は悪く、よくサボるので、大学の講師の皆様は刹那の存在を快く思っていないでしょうね』 「元々、俺はこの世界にとっては因果分子だ。人間が世界を構成する分子の一つとするなら、俺はその中でもイレギュラーな存在だか…ゴホッ、ゲホッ!」 突然、喘息のように咳き込んだ刹那は、机の引き出しからカプセル状の薬を2錠ほど取り出し、それを手元のペットボトルに入った水と一緒に飲み込む。 数秒して、刹那の咳は治まった。 「…はぁ。これが、俺がこの世界から拒絶されている証拠だ」
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