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刹那は、昨年から原因不明の病に侵されている。
医者はそう言っているが、刹那は漠然としてわかっている。
明確にそうとは決まっていないが、刹那はそう捉えている。
机の引き出しから簡素な大学ノートを取り出すと、適当なページを開いて1ページ分を切り取り、ボールペンを握る。
「俺が元々いた世界を『世界α』と置き換え、この世界を『世界β』と置き換える…」
サッサッサっと、刹那はノートに円を描いていく。左側に描いた円の上に『世界α』、右側の円の上に『世界β』と記す。
その下にさらに小さな円を描いて、その円の中に『刹那』と記す。
「俺がこの世界に来たのは、『ワールドシード』が破壊された時に起こった、時空の歪み…」
大きな円と円の間に、『時空の歪みの生じ』と書く。
次に、『刹那』と記された円から右側に矢印を伸ばすように書く。
そして、右側の円、『世界β』に移動した『刹那』が、拒絶される様子をザッと書いた。
これだけでは、刹那が『世界β』に移動させられ、拒絶されている様子を描いているようにしか見えないが、刹那は別の答えを導き出す。
「平行世界…。パラレルワールド…」
『私達を一括りとする「世界」は、次元的、多元的に存在し、そこには自分と同じ存在が、平行して生きている、という仮説の事ですね』
「ああ。もしこの世界が『世界β』ならば、俺はその仮説を実証してしまった事になる」
『もし刹那が科学者なら、相当喜んだんでしょうか…?』
「いや、俺が科学者だったとしても、喜ぶ事はないだろう」
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