第一章

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『無能な人間』  生まれ変わりたいと、何度も願ってきた。 ……いや、生まれ変われなくても、元気になりたい。ただ、それだけを願い生きてきた。  美味しい物が食べたいとか  外で思いっきり遊びたいとか  欲を出せば、望むことはたくさんあるけれど。でも、元気になれるのであれば、他には何も望まない。  普通の人と同じ、平凡な毎日を過ごす、という細やかな願いでも、神様は叶えてはくれなかった。  仲間とはぐれた上、上手く飛べずにひとりでいたこの雀も、私と同じ。神様から、空を飛ぶ為の翼を奪われたのだ。  人も生き物も、何故こうも平等に生きられないのだろう?  平等であったならば、私もこの雀も、こんなツライ思いをすることなんて、なかったはずなのに。  外の様子を見ると、病院に来た時は穏やかに波を打っていた海が、今日は打ち寄せる波が荒いように見える。週刊予報では天気が崩れやすくなると言っていたっけ。  ふと、テレビをつけっぱなしにしていたことを思い出し、視線を海からテレビに戻す。どうやら、少し前に起こった大震災の問題点について、最近よく見るコメンテイターの女性が何かを言っていたところだった。 《今、被災地は食料や衣類が圧倒的に足りない状況なのです。被害のない私たちが買い占めを行なうことは……》  被害を受けていない者と、実際に被災した者との間では随分と感じ方が違うらしい。私は、被害を受けなかった者であるため、被災者の実情は知らない。  それ以前に、他人を思いやれる程の、心の余裕はない。  無能な人間が偉そうなことを言っており、何だか嫌な気分になった私は、テレビを消すことにした。
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