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『何者?』
こんな理不尽な世の中に対して、間違っている、と嘆いた所で、何も変わらない事くらい分かっている。
そもそも何が正しいのか、勝手に考えられる事なのも知っている。
「私は、何故この世界に生まれたんだろう?」
人間は無能な者ばかりだと蔑む私が
病気ばかりでこの世界に何の影響も与えることのない私が
この世界に生まれたことに、難癖つけることは間違っているのかもしれない。だが、それでもなんとなく呟いてみたかった。
すると突然、開けっ放しにしていた窓の外から、私の呟きについて答える声が聞こえてきた。
「俺に会うため、それでいいんじゃねーの?」
「だ、誰?」
独り言になる筈だった言葉に答えが返ってきたため、驚いて声のした方を見る。
声の主は、こげ茶色の長髪で私と同じ位の年齢の男性。隣りの建物の屋上に設置されている貯水タンクの上におり、ニコニコしながら私のことを見ていた。
私と彼の間に一陣の風が吹き、波の音以外の、音という音が一瞬消える。サラサラと揺れる髪の毛を耳にかけながら、彼に質問を投げ掛ける。
「誰なの……?」
「じゃぁ、君は誰?」
おうむ返しのように問いかけてきた彼。その人懐こそうな笑顔につられて、思わず答えてしまう。
「渚……」
「渚かぁ~……良い名前だね」
言ったあとでしまった、と後悔するが時すでに遅し。見知らぬ男性に聞かれるがままに、名乗ってしまった。
隣の建物と結構距離が近いので、普通の声の大きさで話すことが出来た。
これが彼との初めての出会いだった。
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