第一章

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『何者?』  こんな理不尽な世の中に対して、間違っている、と嘆いた所で、何も変わらない事くらい分かっている。  そもそも何が正しいのか、勝手に考えられる事なのも知っている。 「私は、何故この世界に生まれたんだろう?」  人間は無能な者ばかりだと蔑む私が  病気ばかりでこの世界に何の影響も与えることのない私が  この世界に生まれたことに、難癖つけることは間違っているのかもしれない。だが、それでもなんとなく呟いてみたかった。  すると突然、開けっ放しにしていた窓の外から、私の呟きについて答える声が聞こえてきた。 「俺に会うため、それでいいんじゃねーの?」 「だ、誰?」  独り言になる筈だった言葉に答えが返ってきたため、驚いて声のした方を見る。  声の主は、こげ茶色の長髪で私と同じ位の年齢の男性。隣りの建物の屋上に設置されている貯水タンクの上におり、ニコニコしながら私のことを見ていた。  私と彼の間に一陣の風が吹き、波の音以外の、音という音が一瞬消える。サラサラと揺れる髪の毛を耳にかけながら、彼に質問を投げ掛ける。 「誰なの……?」 「じゃぁ、君は誰?」  おうむ返しのように問いかけてきた彼。その人懐こそうな笑顔につられて、思わず答えてしまう。 「渚……」 「渚かぁ~……良い名前だね」  言ったあとでしまった、と後悔するが時すでに遅し。見知らぬ男性に聞かれるがままに、名乗ってしまった。  隣の建物と結構距離が近いので、普通の声の大きさで話すことが出来た。  これが彼との初めての出会いだった。
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