第一章

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『そこにいた理由』 「……そこで何をしているの」 「え? あぁ、ちょっとね。暇だったから寝てただけだよ」  結構ここ気持ちいいんだよ、と付け加えて言った。私の独り言で目を覚ましたか、あるいはその前にたまたま目が覚めて、私の独り言を聞いたとか、そんなところなのだろう。  彼がいる建物は何の施設なのか、彼が言う用とは何なのか、私にはわからない。だが、知って得するわけでもないので、これ以上踏み込むことは無駄だと考え、それ以上は聞かないことにした。  ただ、彼が貯水タンクという足場の悪い場所におり、しかも、彼がいるため海の景色が見えない。そのため、退けるよう促す。 「そこ、危ないから降りてよ。私、アナタじゃなく海見たいんだからさ」 「お前、俺の心配してくれんの?」 「はぁ……目の前で足を踏み外して落ちた、なんてことが起こったら夢見が悪くなる。私の身体に負担がかかるから嫌なの。だから降りてよ」  心臓に負担がかかるようなことは御免被る。これ以上、関わりたくないから言っているのに、彼はまるで聞こうとしない。 「ある意味、俺死にたいのかもしれねぇな」 「丈夫な体で生まれてきて、それでいて死にたいと簡単に口にするなんて、贅沢ね」 「ははっ、丈夫な身体ねぇ……丈夫でも、死にたいって思う時はあるんだぜ?」  機嫌が悪くなった私を見て、彼はため息まじりに、ふぅ、と呟いた。そして彼は、空を見上げながら歌い始めた。
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