第一章

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『違和感』  さっきまで機嫌悪かった私だったが、彼の歌声を聴いたら、何だかどうでもよく思えた。心から、素直に彼の歌が上手いと、そう思い彼に拍手を送った。 「歌、上手いんだね」 「お、さっきまでツンツンしてたのに。俺に興味持った?」 「海の底に沈みなさい。二度と上がって来なくていいから」 「うわーひでぇ」  関わるつもりはなかったのだが、つい自分から話しかけてしまった。結構、ひどいことを言っているので、傷ついてもおかしくないのだが、何処か喜んでいるようにも見える。  ただのバカなのか、それともマゾなのか?  ふにゃっと柔らかい笑顔を浮かべながら、先程私が言った歌の話について、説明し始める。 「一応俺、友達とバンド組んでいるしさ。そりゃギターとかも担当するけど、俺はボーカルメインだからな。流石に歌い手が歌下手くそだと話になんねぇだろ?」 「意外。バンドそのものをしているようには見えないのに」 「ははっ、よく言われる。顔に似合わないことしてるってさ」  幾ら言っても、特に気にする様子もなく笑う彼。怒りという感情を見せずに笑い、話すその様子に、違和感を感じる。ただ単にバカな人間ならば、これまでのやり取りの何処かで怒り、関わりたいとは思わなくなるはずなのに。  彼の後ろに広がる海を見つめ、冷静な判断を後押ししてくれるような、落ち着いた波の音を聞きながら考えていた。
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