序章

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『病院』  エレベーターを降りると、私を待っていた様子の看護婦……いや、今は看護士という呼び方か。女性が私たちに声をかけてきた。 「えっと……大河内さんですね?」 「はい、そうです」  私の代わりに母が答える。これから生活する場となる病室へと案内された。  母は、医者と今後の検査や治療についての簡単な説明を聞く、とのことだったので、私は病室に残った。持ってきた荷物を広げ、作業しながら、看護士の話を聞く。 「向こうの病院にいたからわかると思うけど、何かあればベッドの横のナースコールで呼んで下さいね。あと――」 「勝手に動くな、でしょ?」 「……そうです。荷物などを整理してゆっくり休んで下さいね」  また来ますね、という言葉を残して看護士は病室から出ていった。元いた病院でも、やはり勝手に動くなという注意を受けた。それ程、重い病気を経験しているということだが、そんなところに、どうしようもない虚しさを感じる。  この階の病室はどれも個室らしく、すれ違った人や通りすぎた病室の名前を見る限りでは、入院患者は高齢の方がほとんどのようだ。まぁ、関わることなどないだろうが。  これから始まる、世界に一人だけ残された者のような孤独な生活。耐えられるだろうか。  そんな淀んだ気持ちを振り払うかのように、私は窓をあけた。
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