序章

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『孤独』 「本当に、海が近いんだね……この病院」  窓を開けてまず目に入ってきたのは、隣の建物ごしに見える青い海だった。  これから毎日、あの海を見ることが出来るのだと思うと、ひとりも悪くない。  この病院は、辺りの建物よりも大きいため、海の景色を遮るようなものがない。  弓なりに反った道路の向こうは海だけのようで、ここが町の外れなのだということがよくわかる。  病院の隣には何かの施設らしき建物が建っている。私のいる病室からは隣りの建物の屋上がよく見える。  今いる病室の下の階には隣の建物と病院を繋ぐ通路がある。ここからは見えないが、病院の何処かに通じているみたいだ。運動神経の良い人間ならば行き来するのは容易なことだろう。  これまで住んでいた場所は、時間に余裕を持てるような生活が到底出来ないところだった。しかしこの町は、時間を忘れてしまうほど静かな場所である。  耳をすませば、波の音が聞こえてくる。時折聞こえるウミネコの鳴き声も相まって、中々良い雰囲気が出ている。 チチッ  ふと私の病室のすぐ近くに、雀と思われる小さな鳥がいることに気付いた。  生まれつきなのかよくわからないが、どうやら上手く飛べないらしい。よたよたと歩いている。 「……おいで?」  自分の力で餌をとれるようには見えない。このままだと餓死してしまうだろう。可哀想な気がしたので、荷物を持って来てくれたお母さんが置いていったであろう、おにぎりを少しばかり雀の近くに置いた。一生懸命歩いて雀は餌を食べていた。  キミは仲間とはぐれ  私と同じように  ひとり寂しい思いをしていたんだね。
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