67人が本棚に入れています
本棚に追加
『孤独』
「本当に、海が近いんだね……この病院」
窓を開けてまず目に入ってきたのは、隣の建物ごしに見える青い海だった。
これから毎日、あの海を見ることが出来るのだと思うと、ひとりも悪くない。
この病院は、辺りの建物よりも大きいため、海の景色を遮るようなものがない。
弓なりに反った道路の向こうは海だけのようで、ここが町の外れなのだということがよくわかる。
病院の隣には何かの施設らしき建物が建っている。私のいる病室からは隣りの建物の屋上がよく見える。
今いる病室の下の階には隣の建物と病院を繋ぐ通路がある。ここからは見えないが、病院の何処かに通じているみたいだ。運動神経の良い人間ならば行き来するのは容易なことだろう。
これまで住んでいた場所は、時間に余裕を持てるような生活が到底出来ないところだった。しかしこの町は、時間を忘れてしまうほど静かな場所である。
耳をすませば、波の音が聞こえてくる。時折聞こえるウミネコの鳴き声も相まって、中々良い雰囲気が出ている。
チチッ
ふと私の病室のすぐ近くに、雀と思われる小さな鳥がいることに気付いた。
生まれつきなのかよくわからないが、どうやら上手く飛べないらしい。よたよたと歩いている。
「……おいで?」
自分の力で餌をとれるようには見えない。このままだと餓死してしまうだろう。可哀想な気がしたので、荷物を持って来てくれたお母さんが置いていったであろう、おにぎりを少しばかり雀の近くに置いた。一生懸命歩いて雀は餌を食べていた。
キミは仲間とはぐれ
私と同じように
ひとり寂しい思いをしていたんだね。
最初のコメントを投稿しよう!