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「もう、いっしょにはいられないね」
哀しそうに、彼女は言った。一言を出そうとする度に、苦しそうな顔をした。
男はそれを見ていた。あるいはうつむきながら、視界の片隅に彼女をなんとか捉えていた。
「今日が最後の日だもんね」
「最後なもんか、最後な……」
「きみって、いつもそう」
彼女の声が、いつになく厳しかった。彼女は、彼を非難するみたいに、きっと睨んだ。
「気休めばかり言うくせに、ちゃんとした考えは一つだって教えてくれない」
男には、何も口にできない。喋ろうと口を開きかけて、またつぐんだ。
「私ね、思うんだ。きみは私を本当に愛していたのかって。考えてみればはじめから、きみは私を見てなんかないんじゃないかって」
そう言って、彼女は昔話を始めた。それはまだ二年の前のお話。
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