第2章 郷愁と現実

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 そして、三分も経たずにあっという間に俺がこれからお世話になる三年D組の教室の前まで来た。 「一旦ここで待っててね、後で呼ぶからそのときに入ってきて」  はい、と小声で返事をし、先生は教室へと入って行った。  不意に体の奥底にある何かが溜息となって口から漏れていた。  すると、扉の向こうから「入ってきて~」と声がした。  扉に手を掛け、一度深呼吸をし、扉をあけた。  正直、転校を何回かしているうちに嫌でもこの空気に慣れてしまう。 「それじゃあ、自己紹介お願いね」 「金沢高校から転校してきました、近藤聖耶です、これからよろしくお願いします」  周囲の反応はそれなりで、そこまで大騒ぎするような事にはならなかった。  それに関しては正直ホッとしている。 「それじゃあ、あの席が空いているからそこに座って」  それに従い俺はその席へ向かって歩み始めた。その途中俺は、海斗と文乃は呆気にとられた顔を見つつ、席に着いた。それを確認して教員の話しが始まった。  海斗と文乃が同じクラスだとは内心驚いた。  さらに偶然にも俺の席は文乃の隣で、流石にそれに関しては驚きを隠せないでいた……。  とりあえず、席に着き、文乃の方を見る。 すると、ふっ、と口元を綻ばせ、軽い笑みを見せる。  色々話したいことはあったが、その表情に胸が高鳴った。  い、いまの感覚は……一体、何だ……? 初めて見たわけでもないのに、寧ろ昔と殆ど変わらない文乃の笑顔なのに……一体何で――。  その事が引っ掛かり先生の話しどころじゃなかった。  そして、気がつくとHRが終わっていた。 「よう、聖耶、まさか俺たちのクラスに来るとは……ほんとビックリしたぞ」 「私も~、しかも隣の席だから余計に驚いちゃったよ」 「……そ、そうだな」 「ん、どうした? 何か様子が変だぞ」 「え、そ、そうか? もしかしたら、ここ環境にまだ慣れていないからだろ、きっと……」 「そうだったか……って、そんな事じゃないだろ? 何か別な事だろ」  流石、俺の幼馴染みやってないな……。実際その通りで、さっきの文乃の笑顔で高鳴ったあの気持ちに疑問を抱いていた。
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