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サッカーが好きだとか、あだ名はなんだとか、覚えられる気もしないほど様々な自己紹介が行われた。
そんなにすぐ、覚えられるわけがない。みんな聞き流してるだろうな、
でも、私は何を言おう。
自分の順番が近づくにつれて少し焦った気持ちになりながら、前を見ていた、そのときだった。
「田中健太郎です。家はM市のN浜という海の目の前に住んでいます。趣味は....」
私は一瞬声を出しそうになったのを必死に飲み込んだ。私が通っていた高校のすぐ近くだ....。
そう思ったのと同時に、彼の目を細めて優しく笑うその笑顔に、なぜかものすごい安心感を感じていた。
「田中健太郎とかちょーありがちな名前だね」
隣から小声で話しかけてきたるかの声に少しぴくっとなった。
「でも、あの人面白そうだね」
仲良くなれそう、直感だった。
それからまた何人かの自己紹介を挟んで、るかが早くもクラスのリーダーになれるかのようなしっかりとした、だけど愛想のある態度で自己紹介を終え、私の番になった。
「飯塚りのです。A高校出身です」
....そう言ったとき、真ん中の列の前から2番目の席から
「あ、近い!」
という声が聞こえた。田中健太郎だった。
「近いですね」
と、自己紹介の声より小さく私は彼に言葉を返していた。
彼は、嬉しそうに目を細めて優しく、笑っていた。
るかと話しながら桜並木を歩いて帰った、入学式の日。
私の人生を変えてしまう大きな大きな出会いをした。
帰りの電車の中
私は、明日からの大学生活が、楽しくなることしか考えられなかった。
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