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開けた先に見えたのは…古びたベッドに横たわる女性らしき一人の人物と、その傍らにタオルを胸に心配そうにベッドに横たわる人物を看ている、一人の少女の姿。
よく見ると右手ではベッドに寝ている弱々しい女性の手が握り締められていた。
気付かれぬ様に音は発てず静かに壁の端から覗き込む。
「…お母さん。早く、元気になって…」
壁に掛けられた聖母・マリアの写真を見つめながら健気に母の身体が良くなることを願う姿は、少し何かを感じる。
だけど、これは任務だ。どんな事があろうとも課せられた任務を最後まで全うするのが、レイの使命だから。
それに標的のデリート(削除)は失敗してはいけないのだ。
ほんの少しだけ感情が芽生え始めたかと思えば、それは意図も簡単に摘み取られた。レイはその場に立ち静かに瞳を閉じて、感情を殺す。
人を殺す危険人物である自分達に感情なんて必要ない。あるのはただ、破壊衝動や人の最期(死)を目の前に魅せるだけの―――力。
古びた扉がギィ…ッと音を発てる。レイは懐から銃を取り出して、静かに二人に背後から歩み寄っていく。
「ゲホッコホ…いつもすまないね、ナディ…」
「…ううん。わたしのことは気にしないで?お母さんは、元気になって」
弱々しい身体と比例するかの様に声も弱々しく、今にでも消えてしまいそうなモノ。
ナディが立ち上がってお水変えてくるから待っててね、と言って振り返ろうとした直後―――、ゴトリッと何かが重く床に落ちる音がした。
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