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つい先程男の正体を目の当たりにした彼には同情など微塵も無い。
「……任務完了」
何しろ今床に転がっているこの男はこの辺り…否、この街を数年前に自ら立ち上げた会社が成功したことを良いことに、牛耳って居たのだ。
雇っている中でも自分が気に入ったような部下にはそれなりの待遇を与え、それ以外には仕事内容とはどう考えてもそぐわない金を与えていたらしい。
当然ながら納得がいかないと批難が殺到したが、それすらも応える事なく不正に仕入れたらしい金を使っては揉み消していたという話も、彼の耳には入っていた。
一部を除いて同情を抱かれる様な人物ではないと言える。
一先ず任務を終えた彼は少し時間が経ち既に冷たくなった男を一瞥してから、踵を返し侵入した時と同じく部屋の窓から出ようと手を伸ばした直後。
背後から何やら音が聞こえてきたので振り返れば、閉まっていた筈の扉が開け放たれて――そこには呆然と立ち尽くす、一人の使用人らしき女性が立っていたのだ。
「……旦那…さ、ま…?」
唯一の救いと言うのか部屋の電気は侵入した時に消しておいたので、恐らく今しがた「旦那様」と呼ばれた男を殺した犯人である彼の顔は、見えないだろう。
だからと言って安心するのはまだ早い。
こうして此処に居る限り、外からの光が当たればいつバレてしまうかは分からない。
気付かれぬ間に彼は窓からロープを使い部屋から出ようとした矢先―――部屋に一筋の光が射し込み、任務を終えて脱いでいたフードのしたの素顔を、晒したのだ。
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