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幸いな事に同時に自分が働いている屋敷の主人が、冷たくなって床に倒れているのが彼女の目に飛び込んできた。
「…っひ…ッ!?きっ、きゃあああああ!!」
恐怖の余り右手で口元を押さえ左手で髪をわし掴む様に耳元に手を当て、遂には信じられない光景を目の当たりにした為、腰を抜かしてその場にへたりこんでしまう。
「…ぁ…ああ、ぁ」
嗚咽の様な声を洩らし顔を拭いきれない涙で滅茶苦茶にした彼女が、暫く予想していなかった展開に立ち止まってしまった彼を見る。ハッと我に返りしまったと思った時には遅く、運悪くも彼女に素顔を見られてしまった。
見られてしまったことは事実だが、それもほんの一瞬だけ。振り返る事なく瞬時に部屋を飛び出したのだ。
彼が去っていた事に再び呆然とする。そんな彼女の傍に、先程の叫び声を耳にした同じ使用人等が次々と駆け付けてきた。
「どうした!?」
「何が……イヤアア?!」
「…そ、そんな…」
と駆け付けてきた者達は部屋の惨事を目の当たりにしては、次々に言葉を無くしてゆく。
そんな中、第一発見者である彼女は彼が去っていた窓を見つめぽつりと呟いた。
「……深紅の血猫…―――」
その小さく微かな呟きは誰の耳にも入ることはなく、惨劇の闇へと吸い込まれて虚しく消えていった。
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