CASE1*百合子

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「今夜は絶対早く帰ってきてよ? ねえ!聞いてるの?」 玄関先で、こちらを見ようともしない夫に苛々しながら、今日の予定を確認するように百合子は語気を荒げた。 「……わかってるよ なるべく早く帰るから…… いってきます」 うんざりしたように靴を履きながらそう言った夫は、重たい玄関の扉を面倒くさそうに押し開けた。 「いってらっしゃい……」 いろんな言いたい言葉を呑み込んで、とりあえずそう言って夫を送り出そうとしたのに…… ガシャン!! 無情にも彼が無造作に閉めたドアの音で、百合子の言葉はすっかりかき消されてしまった。 閉じられたドアのこちら側で、何だかこの世界に一人ぼっちになってしまったかのような孤独感に襲われる。 もう何度こんな会話を繰り返しただろう? 結婚してもうすぐ三年。 百合子達にはまだ、子供がいない。 明政9年に『少子化対策支援法』が出来てからもう20年は経つが、追加法案が発表されたのは今回が初めてだった。 結婚して三年以内に子供が出来なければ離婚を余儀なくされるという法案。 それは百合子にとって理解しがたいものだった。
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