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百合子達の住む団地が延々と並ぶ下流世帯区域を自転車で走り抜けると、中流世帯の人達が住む高層マンションが次々と現れる。
ここには子供のいる世帯が優先的に住めるようになっており、だいたい一家族に1人~3人の子供がいる平均的な家庭に与えられていた。
ミーンミンミンミン……
ジジジジジジ……
蝉の声が百合子をイラつかせる。
一旦自転車を停めて、額や首から滴る汗を、鞄に入れておいたハンカチで乱暴に拭った。
緑は色濃くなり、照りつける太陽や、むせ返るような湿気を含んだ空気も、もうそこまで夏が来ていることを知らせていた。
マンションがそびえ建ち、スーパーや複合施設が並ぶこの辺りには、百合子も買い物に来たりすることはあった。
百合子の住む区域には商店街はあるものの、ここほど品物が揃ってはいない。
買い物すること自体はどこで買おうと制限もなかったため、下流の住人も気軽にこちら側に来ることは可能なのだ。
百合子はまだまだ先にある巨大施設を目指し、自転車を必死に漕いでいた。
中級世帯区域をようやく抜けると、上流世帯の住む区域が見えてくる。
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