CASE1*百合子

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ここには豪華な施設があちこちに点在し、昔で言うところのセレブのような生活を快適に過ごすことの出来る場所だった。 もちろん、下流の者もここに入り施設を利用することは許されている。 けれど、普通の生活さえ共働きで必死に稼がなければままならない下流の者達は、こんなところで遊んだり買い物をしたりするお金も時間もなかった。 だから実質的にはここを利用できるのは上流世帯と、中流世帯の一部に決まっている。 子供がいないだけで、こんなに貧富の差があるなんて…… パートに向かう道すがら、百合子は毎日ここを通るたびにそう思う。 子供さえ出来れば、妊娠したとわかった時点で、あの窮屈で陰鬱な団地とおさらばできるのに…… 本来、百合子は三人姉妹で実家は中流世帯で幼少期を過ごした。 それは洋一も同じことで、彼もまた二人姉弟だったため、中流世帯の人間だった。 だからこそ、この下流世帯で生活することは、二人にとって屈辱以外の何物でもないのだ。 子供の声が一切聞こえない町には、もちろん学校も存在することなく、住人は皆、子供が出来ないことに苦しみ悩む夫婦や単身者に限られており、この町を一層暗いものにしている。
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