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新婚のうちはまだいい。
早く子供を作って、あの高層マンションに引っ越すことを夢見ながら、毎日子作りに励めばいいのだから……
実際、最初のうちは百合子達もそうだった。
けれど、それも二年を過ぎるとだんだん焦りに変わってくる。
団地から抜け出せないだけじゃなく、後一年も経たないうちに離婚しなくてはならない法案が、つい最近可決されたばかりだからだ。
洋一の態度を思い出して、百合子はまた悔しくなる。
最近の非協力的な洋一に、百合子は不安と憤りを感じていた。
昔みたいに“子供が出来なくても二人で仲良くやっていこう”という選択肢は今は許されない時代だ。
それなのに……と百合子はため息をつきながら、肩を落とした。
上流世帯区域を抜けると、ようやく百合子の勤める、巨大な要塞が見えてくる。
毎日一時間以上かけて通うこの施設で、百合子は週に5日ここの住人に食事を作っている。
いわゆる給食のおばちゃんだ。
施設に入るためのIDカードを入口にかざすと、シュンッという音をたてて扉が横に開く。
そこから庭に続く道を百合子はゆっくりと入っていった。
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