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時は経ち、悠斗は吸血鬼の女の子として過ごしていた。
腰近くまで届く黒髪に紅い瞳の彼女は、この上ないほど可愛い容貌をたたえていた。
「ユリス、待ってよ~~!」
「いやじゃ~~」
そう、他の人からは追いかけっこ。しかし、彼女からしては必死の逃走だった。
悠斗はユリスとして生を受け、転生したのだった。ようやく自分の意志で動けるようになったのは、3歳になってからだった。
この世界は『カロアディア』。さまざまな種族が住んでいて、人、吸血鬼、エルフ、竜人、獣人と様々。
世界には100少しの国があり、ユリスたちがいるのは、世界で2番目に大きい聖王国アランティア。ユリスは聖王家と繋がりがあるフェラルシア公爵家の娘である。
ユリスを追いかけているのは5歳上の兄、ローラスで、本人は無自覚であるが、極度のシスコンであるのだ……。
吸血鬼の生殖能力はかなり小さく、子2人がいるのは奇跡であった。吸血鬼は夜行性であり、太陽に弱い。寿命は遥かに長く数千年を生きるものもいる。ユリスとローラスの両親は2人とも100歳を過ぎているが、容姿は年頃の少女と少年としか見えない。
屋敷を何周かしたあと、ユリスは息が切れてきたのを感じた。
(兄上はしつこいのぉ……わらわはどうしたら……)
逃げて逃げても追いかけてくる。
純白のワンピースが風に揺れて裾がめくれるのを手で押さえながら、ユリスは思案していた。
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