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「はいはい、わかったわかった。じゃあ話だけでも聞いてみるよ。」
僕はついそう答えてしまった。
「よーし、じゃあ明日の17時に駅前に来いよな!」
そう言うと電話が切れた。
「はぁ…また断れなかった。」
自分の不甲斐なさに少しへこむ。
気分転換にテレビに目をやった。
臨時ニュースだ。
「あの大手株式会社倒産!」
大々的に報じられている。
「神野株式会社の元社員、Aさんの話を伺いたいと思います!」
アナウンサーがそう言うと、Aさんと思われる人が口を開いた。
「神野若社長は、俺がYesと言えばYesなんだ!ってしょっちゅう言ってました。ひどいもんですよ。そんなんだから社員にも顧客にも反感を買ってしまって…」
穏やかではない。
神野 正義(かみのまさよし)。
僕のもう一人の親友だ。
少し前にお金を貸して欲しいとせがまれたことがあった。
これが理由か…
「なぁ中、頼むから10万貸してくれないか?」
「俺にそんなお金ある訳ないよ!」
アルバイト暮らしの僕には愚問だ。
「じゃあ1万でいいから頼むよ。」
小さな声で正義が言った。
「しょうがないなぁ。すぐ返してよ?」
僕は断りきれずに1万円札を財布から取り出した。
「わかってるって!サンキュー中!」
1万円札をかすめ取り、逃げるように去っていく正義の背中を見つめながら、やはり僕は自分の不甲斐なさにへこんでしまった。
悪徳商法に手を染めてしまった横島 歩。
責任感に溢れ、真っ直ぐな性格のはずだった神野 正義。
一体何があったのだろうか…
いつからだろう。
誰にも嫌われたくないと思うようになったのは…
断る事ができなくなったのは。
ふと物思いにふける。
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