ネルソン

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私が学校に来てから四日目のことだった。 その日も、お祭りの準備をしていた。 私もいくつかのグループを順番に見て歩き、アドバイスをしたりうまくできない子を手伝ったりしていた。 ちょうど、教室の隅の方で綿やビーズを使ってパフェ作りをしていた子に「おいしそうだねぇ。」などと話しかけていた時のことだった。 教室の反対側にいたグループから大きな声が聞こえてきた。 私と担任の先生は一斉に振り向いた。 声の主はネルソンだった。 担任の先生が駆け寄ったので私は他の子どもたちを落ち着かせた。 ネルソンは「チョコレート、言う!」とか「バカ、言う!」などと言っているがそれ以上の日本語が話せず、わからなかった。 その後、英語で話し出したが、興奮して早口でまくしたてていたので聞き取れず頭を抱えた。 結局、ネルソンの母親に学校へ来てもらうことになった。 家は学校のすぐ近くであったし、ネルソンの母親は働いていなかったので通訳してもらおうということになったのだ。 ネルソンの母親は、校長・教頭・教務の先生と共に教室に入ってきた。 彼女は大柄で、あまり愛想のいいタイプではなかった。人見知りなのか、ネルソンと同じように日本人に不信感をいだいていたのか、それとも日本語を話すことに自信がないだけだったのか・・。  それでも、ネルソンとよく似た大きくて吸い込まれそうに黒く美しい瞳を一目見て、私は親近感を持った。頭にバンダナのようなものを巻き、スポーティで動きやすそうな恰好をしたその女性を、失礼にならない程度に見つめた。 母親は、ネルソンにひとしきり話を聞くと、泣いたことを「ネルソン、弱い!強くならなきゃダメ!」と言った。 そして、担任たちに内容を伝えた。 同じグループの子どもが、「ネルソンの肌ってチョコレートみたいな色だね!」と言ってきたことを差別されたと感じ、腹が立ったので突き飛ばすと「バカ!」と言われてしまったということだった。 校長先生から子どもたちに「肌の色が違う人たちは世界中でたくさんいます。みんな肌の色や目の色、違います。けれど、それは何もおかしなことではありません。」などという話をし、子どもたちもそれ以降は肌のことを言わなくなった。
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