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夜、仕事から帰ってきたら、もう和志の姿はなかった。
綺麗に整頓されたテーブルにはたった一言、
「さよなら。」
と書かれたメモだけが残されていた。
水色の歯ブラシも、コムサのジャケットも、NIKEのAIR-FORCEも、SINA COVAのトートバッグも、ぜ~んぶ無くなっていた。
突然のことで呆然と立ち尽くしちゃって、泣くことも忘れていたよ。
はっ、と思い出したように携帯を取って、ボタンに指を伸ばしたけれど、かける勇気は出なかった。
突然なことのようで、心のどこかでは予感があったようにも思えた。
二人の関係が終わりに近づいてることには気付かない振りをしていただけ。
ふらふらと夕陽に導かれ、窓をそっと開ける。
夜風に当たりながら、暫くぼぅっとしてみた。
一時間ほど経っても和志は帰ってくるはずもなかった。そんなこと、分かっていたのに。
何を期待していたんだろう・・・。
まだ冷たい春風が見に染みる。
小さな溜め息をひとつ落として、窓を閉めようとした瞬間、和志が書き残したメモが私の後ろから風に乗ってふわ~っと外へ飛んでいった。
「あっ」
と思い、伸ばした手は宙をさまよい、一瞬で置いてきぼりに。
追いかける理由も見つけられず、ひらひらと舞っていく紙切れをただ眺めていた。
「これってなんかドラマのワンシーンみたい。」
なんて空に手を差し伸べたまま、呑気なことを考えていた・・・。
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