1人が本棚に入れています
本棚に追加
11月の冷たい雨が、今日も降っている。
俺は、会社の窓から外を眺めた。
無機質な冷たい雨が、さらさらと降りしきる………。
この雨の色は、どんなだっただろうか……?
5時を過ぎ、就業時間が終わった。 デスク周りを簡単に片付け、いくつかの書類を鞄に入れ席を立つ。
「あの……柴田さん。今日、飲みに行きませんか?」 同僚の島崎だ。
「すまない。先約があるんだ……」
「……そうですか……」
俺の冷たい言葉を聞いた島崎は、すごすごと引き下がった。
俺は無視して出口に向かう。
背後から、他の同僚の、だから言っただろ。とか、柴田さんは……。などと言う言葉が聞こえたが、すでに何十回も聞いてきた陰口で、聞き飽きていた。
俺は何も感じないまま、エレベーターの前に立った。
「あ…あの……柴田さん……」
聞きなれない女の声で、俺は振り返る。
見ると、まだ二十歳そこそこの若い女子社員が、ちらちらと、こちらを見ながら、頬を赤く染めている。
「………なんですか?」
「あの……えぇと……良かったら、これから一緒に飲みに行きませんか?」
俺は少し、その若い女子社員を観察した。
何度か見かけた事がある。 胸のネームプレートには『緒方』とあった。
赤く細いフレームの眼鏡を掛けているが、それなりに可愛い部類に入るだろう。 スタイルも、それなりに良かった。
だが、俺はきっぱり言う。「すまないな。先約があるんだ」
「そ……そうですか……。すみません……」
女子社員、緒方は、あからさまにガッカリして、後ろ姿を見せた。
俺は、ため息をついて、エレベーターに乗る。
会社は駅の近くにある小さなビルの、2フロアーだった。
出版業務を細々とやっている退屈な会社だ……。
俺にとっては、ちょうど良い………。
エレベーターに乗り込み、エントランスの入り口に向かい、足を止めた。
先程よりも、雨が強く降っている。
だが、俺は構う事無く、外に歩き出た。
さらさらと降りしきる雨が、身体を打てば打つほどに、心が空になっていく……。
これでいい。これでいいんだ………。
最初のコメントを投稿しよう!