色の無い雨

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俺は雨に濡れながら、歩きなれた街を歩く。 テレビで見たニューヨークの、ダウンタウンの様な、この街が好きだった……。 駅を1度潜り抜け、細い路地に入る。 それから、何度か細い迷路の様な路地を抜けて、その店は姿を現す。 『BAR COLTLANE』 まるで、アメリカ映画に出てくる様な、トレーラーハウスを、そのまま店にした様な横長な小さな店だ。 なぜ、こんな場所に店を建てたかは謎だが、それなりに繁盛していた。 俺は、店の看板に灯りが灯っている事を確認し、数段のレンガの階段を登ってドアを開けた。 「いらっしゃい」 若い女のバーテンダーが、一人、カウンターで雑誌を読んでいたが、それを閉じた。 俺は、入り口近くにあるハンガーに濡れたコートを掛けて、いつもの席に座った。 女バーテンダーは、俺の前に乾いたタオルを、そっと置き、次いで灰皿を置いた。 それから、何十ものグラスの中から、俺の気に入りのグラスを取る。 それから、シーバスリーガル12年のボトルも取った。 そのグラスにロックアイスを入れ、シーバスを静かに注ぎ入れる。 俺は、マルボロに火を点け、思いきり吸い込み……ゆっくりと煙を吐き出した……。 カウンターの上の柔らかなダウンライトに、螺旋を巻きながら、ゆるやかに煙が立ち昇る。 そして、それは店内を満たす静かなジャズに溶け合う。 俺は、それを感じるのが好きだった……。 女バーテンダーは、俺の前にグラスを音も立てずに、すっと置く。 俺は、それを静かに持ち、口に運び、一口飲む。 ウイスキー独特の舌が焼ける感覚と、どっしりとした質感が伴う味わいに、俺は思わず目を一瞬閉じ……息を吐いた。 グラスを置き、また煙草を思いきり吸い込み、煙をゆっくりと吐き出す。 女バーテンダーは、それを見て、安心したかの様に微笑み、後ろを向いて自分のお気に入りのグラスを取った。 それに氷を入れ、俺の前にあるシーバスのボトルを取り、こつこつと自分のグラスに注ぐ。 それから、当たり前の様に、そのグラスを持ち上げ、魅力的な唇に押しあて、シーバスを飲んだ。
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