前世

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「フフ。はい。」 「その…少し歩きませんか?」 「お体に障りませんか?」 「今日は調子が良い。どうですか?」 「そうですか。では行きましょうか。」 男は微笑んだ。 「ここの桜は綺麗だというのは誠だ。」 「はい。私も誇りです。」 「紅葉も楽しみだな。」 「フフ。」 「こうして誰かと話すのは久々だ…。」 「…。」 「ここに来るのが楽しみなんだ。そなたと話せる。」 「私も楽しみです。」 「…それは誠か?」 「はい。私も話し相手がいないもので。」 「似た物同士だな。」 「フフ。そうですね。」 「…その、明日また訪れても良いか?渡したい物がある。」 「渡したい物?」 「あぁ。」 「わかりました。では明日あそこの御神木の下でお待ちしてます。」 翌日私はなんだか楽しみで早く約束場所へ着いてしまった。 〈早すぎたか?〉 するとハァハァと息を切らす音がしてきた。 「待たせてしまいましたか?」 「いいえ。私も今着いたところです。」 よかった。と笑いながらハァハァと言っている。 「そんなに走ったらお体が…。」 「大事ない。それよりこれをそなたに。」 そう言うと彼は懐から小さな貝のような物を出した。 「これは…紅?」 「あぁ。母上の形見なんだ。」 「そんな大切な物を私に?」 「そなたに持っていて欲しい。それに我が持つ意味がない。」 「ありがとうございます。」 「喜んで貰えてよかった。」
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