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その日はいつもと変わらない、仕事に追われた忙しい日の筈だった。
「あ、委員長、副委員長、紅茶でも飲みますか?」
思い出したかの様にそう声を上げる悠布に久遠と優は頷く。
それを見て、悠布は立ち上がり紅茶を煎れに向かう。
仕事の量が多く、何時間もやっていて疲労が溜まっている事に気付いての行動だろう。
久遠は手元の書類に目線を落とした。
―――こん、こん
不意に聞こえてきたドアノックの音に久遠は書類を見たまま、「はい」と返事をする。
が、開かれる事なく、またこん、こん、と叩く音が響き、久遠は怪訝な表情で扉を見遣る。
「…どうぞ」
用事がある者なら、その言葉を聞けば大抵は入ってくる。
だが、今回の来訪者は自分から開こうとしない。
―――こん、こん
一向に開く事なく、響くドアノックの音。
怪訝な表情の優と顔を合わせる。
と、その時、
『…あーけーて、くおんにーちゃ…』
聞き覚えのある拙い日本語に久遠は勢いよく立ち上がる。
『くおん、にーちゃ…あけて、ふぇ…ゆーにーちゃ、まさるにーちゃ…』
慌てて扉を開けるとそこには泣きべそ姿の幼い美鶴がいて。
久遠の顔を見た瞬間、今にも泣き出しそうだったその顔に笑顔を浮かぶ。
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