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遠目でなら、式典などで殿下の姿を何回か見たことがある。
だけど、間近で見たことがあった訳ではないし、滅多に人前に出てこない事で有名な殿下が、こんな森の中で寝ていただなんて信じられない。
だからこそ、今の今まで目の前に立っている男が王太子殿下などとは思いもしなかった。
「キース、外で殿下と呼ぶなと言ってるじゃないか」
「す、すいません…つい…」
そんなやり取りを呆然と見つめていると突然殿下と呼ばれた男がマリアンヌの方に振り向いた。
「君…」
「はい?」
「な…「アレックス様!」
「キース…」
「申し訳ありませんがゴーレム様が急いで城に戻るようにと。かなりお怒りでしたよ!とにかく馬を連れて来ますから、早く帰りましょう!」
「はぁ…。わかった」
キースはアレックスが頷いたのを確認すると、少し離れた所に繋がれている馬の方へと駆けて行った。
「あーあ…仕事が終わってないことがばれないうちに帰るつもりだったんだけどな…」
ポリポリと頬を掻きながらぼそっと呟いたアレックス。
本当は聞こえていたけど、マリアンヌは聞いていない振りをした。
キースが繋がれていた馬を連れてくるとアレックスはそれに跨がり、マリアンヌの方へ振り向いた。
「君ももう帰るのか?」
「そうですね…これぐらいあれば十分なので…」
「なら、一緒に馬に乗ると良い。君の家まで送って行こう」
「えっ!?とんでもない!結構です!!」
まさかの申し出にマリアンヌは驚いた。
ただの平民が王太子殿下と共に馬に乗るだなんて!あり得ない!!
「何故だ?もう帰るだけなら、遠慮することはない。さあ、手を」
「で、でも…」
「いいから、さあ」
そう言って差しだされた手。
困ったマリアンヌは助けを求めるようにアレックスのそばにいるキースに目を向けた。
なのに助けるどころか、早くしてくれと懇願するような目を向けられてしまい、マリアンヌは仕方なくその手を取ったのだった。
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