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「結愛(ゆな)、行こう? 」
「あ、うんっ。ちょっと待ってー」
ショートホームルームが終わり、担任の先生が帰りの挨拶と共に教室を出て行ったと思ったら、すぐに亜紀(あき)が私の席まで迎えに来る。
「珍しいね、結愛があたしよりも帰り支度遅いなんて。まぁ、今日はあたしも早かったけど」
そう言って亜紀が笑えば、私はなんだか少し申し訳なく感じながら、もごもごと理由を話す。
「ごめんね、待たせちゃって。今日、なんか、もういるから…。帰る準備忘れてつい見ちゃってて…」
歯切れ悪く、何が言いたいのか分かりにくい言い訳をするが、私の視線が窓の外に向いたことで亜紀には私の言わんとすることが伝わったらしい。
「あ、ほんとだ! 今日は早いんだね。それでかぁ。そりゃあ、愛しい彼の姿が見えたら目で追っちゃうよねぇ」
窓際の私の席からは、野球部のグラウンドがよく見える。
そこに、鈴の姿を発見した私は帰り支度もそっちのけで、彼の姿をずっと見ていたのだ。
いつもはこんなに早くグラウンドに現れないのに、今日は鈴のクラスのショートホームルームは早く終わったみたいだ。
それにしても、さっきの亜紀の発言は…
「亜紀ちゃん! 声おっきいよー」
「誰も聞いてないって」
あはは、と笑いながら言うが私は周りが気になってしまう。
「もぅー…」
(確かに、誰も聞いてないんだろうけどさ)
私は苦笑いするしかない。
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