1.春、来たる

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  「俺、告られたこと三回あるんだ」と自慢げに語り出すやつは往々にしてその記録を盛っている。実際は二回なのだが、「幼稚園の時のも含んでいいよね」とか考えて盛りだすのだ。いざ聞かれると架空のことを言い出したり、告白かどうかすれすれのものを口にする。これはある種バレンタインのチョコの数に母親や妹からのチョコも加える心理に似ているだろう。  僕のことだった。  また、二回とか言いつつそれは自分が告白して玉砕した回数も含まれていたりすることもある。「告白って点では同じだろ」当人はそんなことを笑みとともに漏らすのだ。思い出すと脳のどこかが不協和音を奏で出すので、詳細は「そんなこと覚えてねえし」とごまかす。これは修学旅行の夜の大部屋内での会話で多用されるだろう。  またしても、僕のことだった。  更に言ってしまえば一回目も……と穿った目で僕のことを見るのはいささか早計だと思う。何故なら零と一には雲泥の差があるからなのだ。よくも考えてみてほしい。その時の臨場感や興奮を零の者がどう口にしようと言うのだ? 場所は様々だが、例えば夕暮れ時の教室。メールなどで呼び出され、あの子を待つあの瞬間。これは筆舌に尽くしがたいものがあるわけだ。偽れたものじゃない。突っ込まれたら零の者は虚言をつくることさえできないだろう。そんな危ない橋を渡るなんて馬鹿らしい。だから盛るのは一回目がやってきてからなのだ。  さて、これらの話を前提にして言わせていただこう。  僕は三回告白されたことがある。  勿論一回には妹にチョコを貰ったことをカウントしているし、二回目には自身の妄想上の彼女が思いを告げてくれたと信じている。だが、断じて、絶対に、前提的に、言わせてもらおうか。僕は一回はしっかりと女の子に告白されたことがあるのだ!  まあ、それは今この瞬間起こっていることなわけだけど。
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