1.春、来たる

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   呼び出しに使用されたのは携帯によるメールだった。それが僕の携帯電話を鳴らしたのは前日の夜十時のこと。その時部屋でゆっくりとゲームを嗜んでいた僕は級友の誰かかと思い、気軽に携帯のディスプレイを覗きこんだ。  目がひっくり返った。  いや、この表現は伝わるのかわからないが、とりあえず驚天動地に立たされたということがわかってくれれば構わない。要はビックリしたわけだ。  雪地朱音。画面にはそう表示されていた。  僕が驚いたのは二つの理由による。一つはこのクラスメイトの少女は、学年の男どもが勝手に作り上げた可愛さランキングで一位になっているという美貌の持ち主だからだ。多くのイケメンがこの二か月で挑んでは沈んでいったのは記憶に新しい。ちなみにそのランキングは投票制で、僕もこの子に投票していた。まあ、だってそれくらい可愛かったから。  二つ目はディスプレイにその名が表示されるとは露とも思っていなかったからだ。このアドレスは直接彼女に聞いた……わけではなく、彼女と同じ中学に通っていた男友達から買ったのだ。金千円だった。彼がこの話題を提示してきたとき僕が飛びついたのは言うまでもない。安い買い物だった。そう言わざるをえない。余談だが、その男友達はその商売で荒稼ぎをし、十万円くらいの天体望遠鏡を買っていた。どいつも馬鹿か。  話を戻そう。そして僕は手に入れたこのアドレスを使用した――わけでもやっぱりない。イケメンナルシスト馬鹿からメールを送ると受信拒否にされると聞き、更には告白と同じく被害者が後を絶たなかったため、僕も諦めた。こうなったら眺めるだけにしようと切り替えたのだ。我ながら鬼才だと思った。そのおかげで僕は彼女に嫌われることなく上手く立ち回ったのだ。まあ、勿論好かれてもいないのだが。
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